たのしいお勉強

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文化としての『真夏の夜の淫夢』

『真夏の夜の淫夢*1は、日本語圏の文化を語る上でもはや外すことはできないほど有名なムーブメントです。どうしてこんなに流行しているのでしょう。

『真夏の夜の淫夢』は、出演者に関するスキャンダラスな背景からブレイクして、それからはしばらく「アッー!」とか「TDN」が流行したものの、沈静化しつつありました。たとえば、有名野球選手である件の出演者も、渡米をやめ帰国し、日本の球団に入団するような形で終息して、決着しつつありました。*2

しかし、2007年ごろ『ガチムチパンツレスリング』*3というホモ動画が、日本の動画共有サイトで流行*4すると、これに「便乗」する形で、様々な話題に『淫夢』の熱心なファンたちが続々と便乗し続けます*5。この貪欲な姿勢と熱意がネット上で共感を呼び、数年の潜伏期を経て、2009年ごろから、再び脚光を浴びることになるのです。

この間には、『パンツレスリング』を、動画共有サイトの運営が熱心に推奨したことで、インターネットと文化の脈絡を受けた「運営嫌い」な『淫夢』の熱烈なフォロワーたちが、この哲学*6的な分野で、『淫夢』に一斉に舵を切ったことも、再流行にかかる思想的な背景に存在します。こうして、たとえば、今ではTDNよりも野獣先輩の方が盛り上がってしまうほど、詳細に掘られ、一般に膾炙していきました。

技術の側面からは、話題の初期である2003年あたりから、再ブームになる2009年前後までの間に、インターネット接続の回線速度が高速化し、サイズの大きい本編の動画をスムーズに参照できるようになったことも、流行の背景として考えることができます。

原動画の参照が可能になると、原理主義的な再流行につながるのです。シェイクスピアという、魂の内面にまで踏み込むような主題*7を基にしたこと、徹底して演技され作り込まれたゆえの棒読み、複雑な音響効果など、実際の作品には洗練された豊富な要素が含まれており、技術変化を伴い、これらの諸要素の作り込みが、再び脚光を浴びることに繋がっていきます。

淫夢くんというかわいいキャラクターを採用したことも大きいでしょう。

こうして、長期的なファン主導の努力が結実し、2015年現在、動画回帰のムーブメントからはじまり、もはや小学生から土方まで巻き込む、まさに日本を代表する伝説的なコンテンツに成長を遂げたのです。

 

(文字数; 1014)

*1:『BABYLON STAGE34 真夏の夜の淫夢 the IMP』,COAT, 2001

*2:2004年メジャー、2007年帰国し国内球団に入団

*3:米国のビデオ作品であるが、この中でも、出演者たちはたとえば「TDNコスギ」といったように、淫夢の出演者に由来するあだ名をつけられて親しまれていた

*4:本来はいわゆる「釣り動画」の意図でアップロードされたとみられる

*5:たとえば、ボーカロイド初音ミクに「便乗」する形で、山崎まさゆき『千本桜』などが知られている

*6:ホモ・ゲイポルノビデオの隠語だが、早稲田大学立教大学をはじめとした出演者やファンが学ぶ有名私学特有の思想・学術分野でも、ミシェル=フーコーなどによりしばしば持ち出されていることも、哲学といわれる一端にある

*7:cf. 首藤剛志 シナリオえーだば創作術  第168回 『ミュウツーの逆襲』市村正親氏 http://www.style.fm/as/05_column/shudo168.shtml ちなみに、シェイクスピアの時代は女優ではなく、女性の役は男優、多く少年が演じています